ハイヴァン峠は、ベトナムでも屈指の美しさと知名度を誇る海沿いの峠道の一つであり、中部地方のバクマ山脈(チュオンソン山脈の一部)に位置しています。峠はダナン市とトゥアティエン・フエ省の境界にあり、ダナン市中心部から北へ約20km、フエ市からは南へ約80kmの地点に位置しています。

ハイヴァン峠 ― 「天下第一雄関」
標高約500メートル、全長約20〜21キロメートルのハイヴァン峠は、地理的にも気候的にも二つの地域を隔てる自然の境界を形成しています。「ハイヴァン」という名称は「海の雲」を意味し、その名の通り峠の頂はしばしば霧や雲に覆われ、麓には果てしなく広がる東海が横たわっています。
古来よりこの峠は「天下第一雄関」と称され、南国における最も雄大な関門として知られてきました。その壮麗かつ険しい景観ゆえです。イギリス紙 The Guardian からも、世界で最も魅力的な海沿いの峠道の一つに選ばれています。曲がりくねったカーブは山肌に沿って延び、一方には雄大な山林が広がり、もう一方には遥かに続く大海原が見渡せる絶景が広がります。
歴史的に見ると、ハイヴァン峠はかつて大越と占城(チャンパ)の自然の国境でした。これは1306年、チャンパ王チェ・マンが婚姻の贈り物として Ô州と Rí州を献上した出来事に由来します。その後も峠は各時代を通じて戦略的に重要な位置を占めてきました。
峠の頂には「ハイヴァン関」があり、これは陳朝時代に築かれ、阮朝・明命帝7年(1826年)に拡張され、フエ王都の玄関口を守る要塞となりました。1470年、黎聖宗帝がここに立ち寄った際、「天下第一雄関」という六文字を金文字で賛辞として贈り、その言葉が関門の南門に刻まれ、壮麗で稀有な景観を称えました。
今日、ハイヴァン関は文化・スポーツ・観光省によって国家級歴史遺跡に指定され、この歴史的な峠道の象徴的観光スポットとなっています。
主な見どころ
ハイヴァン峠の道は、山雲と大海の狭間を縫うように曲がりくねり、稀に見る雄大な景観を描き出しています。TikTok: @utcuong1998
雄大な自然景観:
ハイヴァン峠は、山と海が織りなす壮大な景観で知られています。峠道はまるで雲間を横切る絹の帯のように延び、一方には深緑の山肌が迫り、もう一方には果てしなく広がる東海が広がります。晴れた日の峠の頂上からは、南側にダナン市全景が広がり、ダナン湾、ティエンサ港、ソンチャー半島やクーラオチャム島まで一望できます。また北側には、緩やかに弧を描く美しい砂浜と、穏やかな漁村が佇むラングコー湾が眼下に広がります。
山腹を漂う白雲が景色に詩情と雄大さを一層引き立て、この地ならではの絶景を作り出しています。まさにこの「山の壮麗さと水の清らかさ」による美景こそが、ハイヴァン峠に不朽の名声「天下第一雄関」を与えたのです。



ハイヴァン関 ― ハイヴァン峠の頂に佇む古代の関門であり、幾世紀にもわたる歴史の足跡を刻む遺跡。写真:Kim Liên
ハイヴァン関(ハイヴァン門):
標高約496メートルの峠の最高地点に位置するハイヴァン関は、古代の城門と防御砦から成る遺跡群です。北門(フエ方面)には「海雲関」、南門(ダナン方面)には「天下第一雄関」という力強い文字が刻まれています。この建造物は1826年、阮朝の明命帝によって、陳朝時代の古い関所跡の上に築かれたもので、南北を結ぶ重要な交通路を管理し、フエ王都を守る目的がありました。
フランス統治時代や戦争期を経て、ハイヴァン関には当時の塹壕や軍事施設の跡が残されており、この峠が持つ戦略的価値を物語っています。現在では修復が行われ(2024年に完了)、観光客が訪れやすい整備された姿へと生まれ変わりました。
城門の上に立てば、連なる山々と広大な海空の全景が一望でき、特に日の出や夕暮れ時は格別の美しさを堪能できます。ハイヴァン峠を訪れる際には決して見逃せない必須の立ち寄りスポットです。

ハイヴァン・トンネル:
山肌を縫う曲がりくねった峠道に加え、ハイヴァン道路トンネルは交通と技術面で注目すべき建造物です。全長約6.2kmに及ぶこのトンネルは山を貫通し、かつては東南アジア最長の道路トンネルとして知られていました。2005年に開通し、2021年には第2トンネルが追加開通しました。これにより峠越えの所要時間は約30分から約10分に短縮され、南北交通の安全性も向上しました。
とはいえ、多くの旅行者は今も旧道の峠道を選び、雄大な景色とハイヴァン峠を自ら制覇する高揚感を味わっています。なお、トンネル内はバイクの走行は禁止されていますが、必要に応じてバイクをトンネル経由で輸送するサービスがあります。自動車の場合、景観を楽しみたい際は運転手にトンネルではなく峠道を走るよう依頼すると良いでしょう。

峠越え鉄道とドンカー石造アーチ橋:
道路トンネルができる以前、20世紀初頭にフランス人によって建設された南北縦貫鉄道は、ハイヴァン峠を越える路線として整備されました。今日でもこの鉄道はベトナムで最も美しい鉄道ルートの一つとされています。列車は山腹に沿って走り、いくつもの山岳トンネルを抜け、古風な高架橋を渡っていきます。その代表例が峠の北側斜面にあるドンカー石造アーチ橋です。



この石造りのアーチ橋は1902年から1906年にかけて建設され、4連の堅牢なアーチ構造で山間の渓谷を跨いでいます。周囲には滝や清流、手つかずの森林が広がり、雄大で素朴な自然景観の中に溶け込んでいます。
さらに、2024年からはベトナム鉄道総公社(ĐSVN)、トゥアティエン・フエ省人民委員会、ダナン市人民委員会の協力により、「中部遺産コネクション」と名付けられたフエ―ダナン間の区間列車が運行開始となりました。
この列車の運行は、フエ市とダナン市という二大都市間の交通アクセスを確保するだけでなく、観光客にとっても特別な体験となります。古都の風情と現代的な魅力が共存するベトナム有数の観光都市を結ぶこの旅は、文化遺産と自然美を同時に楽しめる貴重な機会を提供しています。
ベトナム鉄道総公社(ĐSVN)は、フエ-ダナン間で毎日2往復の列車(列車番号 HĐ1/2 および HĐ3/4)を運行しています。
- フエ発:
- 列車 HĐ1:フエ駅 7時45分発 → ダナン駅 10時35分着
- 列車 HĐ3:フエ駅 14時25分発 → ダナン駅 17時40分着
- ダナン発:
- 列車 HĐ2:ダナン駅 7時50分発 → フエ駅 11時05分着
- 列車 HĐ4:ダナン駅 15時00分発 → フエ駅 17時45分着


ビューポイントと絶景スポット:
ハイヴァン峠沿いには、景色を楽しみ写真を撮るのに最適な立ち寄りポイントが数多くあります。ダナン側では、峠に差しかかる最初のカーブ付近に「クールア岩」があり、ここからはダナン湾とソンチャー半島を一望できる絶景が広がります。さらに道沿いの茶店や休憩所からは、遠くにラングコー湾やラップアン潟を見渡すことができ、特に晴天の日にはその美しさが際立ちます。
ハイヴァン峠の各スポットは、それぞれ異なる体験をもたらします。ある時は雄大な自然の迫力に圧倒され、またある時は今も残る歴史の痕跡に思いを馳せ、静かな感慨にふけることができるでしょう。
交通手段
ハイヴァン峠は、南北を結ぶ大動脈である国道1A線上に位置しています。観光客は、ダナンやフエから(あるいは他の大都市から中継を経て)この峠道を越える旅に挑む際、さまざまな交通手段を選ぶことができます。

バイクまたはオートバイ:
自由で自然を間近に感じたい旅行者に人気の移動手段です。ダナン中心部から国道1Aを北へ約20km進むと峠の麓に到着します。峠道は約20kmあり、景色を楽しみながらの休憩を含め45〜60分ほどで走破できます。フエからは約80km、国道1Aを南下し、ラングコー町を通って北側の麓から登ります。峠道は曲がりくねり勾配も急なため、出発前に車両を十分に点検し、燃料を満タンにし、夜間や濃霧時の走行は避けることが安全です。自分で運転に自信がない場合は、ドライバー付きのレンタルやガイド付きバイクツアーに参加するのも良い方法です。
自家用車またはタクシー:
自動車は時間を節約でき、家族やグループ旅行に適しています。ダナンからは約30分で峠の頂上に到達し、フエからは峠越えで約1時間半かかります。現在、多くの長距離バスは所要時間短縮のためハイヴァントンネルを通りますが、もし景色を楽しみたいなら、事前に運転手と相談して峠道を走ってもらうとよいでしょう。自動車の利点は快適で雨風を避けられる点ですが、バイクに比べると立ち寄りスポットが限られるのが難点です。
列車:
時間に余裕があるなら、ハイヴァン峠を越える列車の旅は非常におすすめです。安全であると同時に、独特の美しい風景を堪能できます。特に旅行シーズンには数日前に切符を予約するのが望ましく、絶景を楽しむために、ダナン発では右側、フエ発では左側の座席を選ぶと海がよく見えます。
費用と料金
ハイヴァン峠の魅力の一つは、壮大な自然の美しさを無料で満喫できることです。移動費用を除けば、観光客が必要とするのは途中で地元料理を味わうためのわずかな食費程度です。
ダナン側の峠麓では名物の「ナムオー魚のゴイ」が有名で、ラングコー(フエ側)では新鮮な海産物を堪能できます。また、峠沿いの休憩所や茶店に立ち寄って軽食や飲み物を楽しみながら絶景を眺めるのもおすすめです。


観光モデルコースのご提案
理想的な時期:
ハイヴァン峠は年間を通じて訪れることができますが、最も理想的なのは乾季(3月〜8月頃)です。この時期は天候が安定して晴天が多く、視界も良好で霧が少ないため、美しい景観を存分に楽しめます。一方、雨季や台風シーズン(9月〜12月)は道路が滑りやすく危険で、濃い霧により視界が制限されることが多いため注意が必要です。
一日の中で適した時間帯は早朝または夕方です。午前6〜7時頃に出発すれば、峠の頂上で日の出を迎えることができ、清々しい朝の空気と静けさを堪能できます。もし早朝が難しければ、午後3〜4時頃に登り、夕暮れ前に頂上へ到着するのもおすすめです。山の向こうに沈む夕日と赤く染まる空は圧巻で、忘れがたい体験となるでしょう。夏の正午は暑さと強い日差しで快適さが損なわれるため避けるのが賢明です。
その他の注意点:
- 出発前に必ず天気予報を確認し、大雨や台風の際は峠越えを控えること。
- バイクで走行する場合は、カーブが多く急勾配の道が続くため、慎重に運転し、下り坂では低速ギアを使用。
- 頂上付近は風が強く肌寒くなるため、薄手の上着を持参すると安心。特に早朝は冷え込みやすいです。
- カメラやスマートフォンは充電を満タンにして持参し、「天下第一雄関」の絶景をしっかり記録しましょう。
勇壮な歴史と壮大な景観を兼ね備えたハイヴァン峠は、訪れる人すべてに深い感動を残すことでしょう。
ダナン市観光促進センター