古都ホイアンの趣ある街並みの中では、苔むした瓦屋根とランタンの灯りがどこか詩的な空気を漂わせています。ここでは、建築や食だけでなく、手仕事の美しさに出会うことも旅の楽しみの一つ。
中でも羽根絵(Tranh lông gà)は、ひときわ印象的な存在です。ベトナムの農村では見慣れた鶏の羽根が、繊細な手仕事によって心を映し出す芸術作品へと姿を変えていきます。

初めて目にした多くの人が驚くのは、この作品が絵の具ではなく、すべて天然の鶏の羽だけで描かれているという点です。職人の丁寧な手仕事によって、一枚一枚の羽が切り整えられ、選び抜かれ、巧みに配置されることで、いきいきとした表情が生み出されます。茶色や黄色、黒、白といった羽そのものの色合いが自然のパレットとなり、素朴でありながら繊細な美しさを作品にもたらしているのです。
羽根絵に生涯を捧げる職人
こうした特別な作品の背景には、羽根絵と長年向き合ってきた職人、ディン・ゴック・ダット(Đinh Ngọc Đạt)の物語があります。本名はディン・トン(Đinh Thông)、1960年生まれ。若い頃から手仕事による創作に魅了されていた彼は、身近にある鶏の羽を絵画の素材へと生かす方法を見出しました。
数十年にわたり創作に打ち込み続ける中で、ディン・ゴック・ダットは数百点におよぶ羽根絵を生み出してきました。その一つひとつに固有の個性が宿り、同じ作品は存在しません。彼の手にかかれば、小さな羽の一枚一枚も活かし方次第で生き生きとした色彩の一部となります。その情熱と粘り強さが唯一無二の芸術スタイルを形づくり、ホイアン旧市街の文化・芸術の豊かさをさらに深めています。
身近な素材から生まれる芸術
羽根を使った絵の創作は、忍耐力と創造力を必要とする繊細な作業です。職人はまず紙やボードの上に下絵を描き、その後、作品の色合いや線に合わせて一枚一枚丁寧に羽を選びます。それぞれの羽は、計算された位置と向きに配置されることで、光の表現や奥行きを生み出し、作品に立体感をもたらします。


特に興味深いのは、羽根絵にはほとんど同じものが二つと存在しないという点です。
羽の色や形はすべて自然のままのものであり、完全に同じものは一つとしてありません。そのため、どの作品にも固有の個性が宿り、職人による唯一無二の創作として完成します。
一枚一枚に映し出される暮らしの断片
羽根絵の題材として、ベトナムの日常に寄り添う身近な風景が多く描かれています。作品の中には、ホイアンの古い街並みや、川沿いに静かに佇む家並み、穏やかな田園風景、そして伝統的なアオザイをまとった女性の姿などを見ることができます。

作品の中には、穏やかな田園の暮らしを思い起こさせるものもあれば、人々の美しさやベトナム文化の魅力を表現したものも。羽を色や線ごとに幾重にも重ねていく巧みな技によって、作品はやわらかさと生き生きとした表情を帯び、まるで自然の色彩で描かれた絵のような印象を与えます。
芸術が語る、この土地の物語
ホイアンを巡る旅の中で、食を味わい、ランタンの灯りの下を歩き、伝統工芸の里を訪ねるといった体験はいつも忘れがたい余韻を残してくれます。
羽根絵もまた、身近な素材が芸術へと変わる表現であるとともに、ホイアンの文化を表すものの一つです。
一枚一枚の作品は小さな記憶や暮らしの断片のように、ベトナムの農村や旧市街、人々の姿を映し出しています。それは単なる芸術作品ではなく、この土地の文化や心を語る独自の表現でもあるのです。
ダナン観光促進センター